4月10~13日の中国視察の報告

4月10~13日の中国視察の報告

 

2017年4月17日

一般社団法人国際介護人材育成事業団  専務理事  小沼 正昭

1.視察の行動表

4月10~13日の日程で、介護技能実習生の送り出し機関の威海(ウェイハイ)立派国際経済技術合作有限公司(山東省)と候補生の事前教育(日本語と介護)を行う研修センターの南京邁特望科技股フェン有限会社(江蘇省)を訪問し、会社の概況と経営トップの取り組み姿勢の把握、準備状況と今後の進め方について意見交換してきました。他に、威海では2つ、南京では1つの介護事業施設を視察してきました。

 

2.威海(ウェイハイ)立派国際経済技術合作有限公司(山東省)について

威海(ウェイハイ)立派国際経済技術合作有限公司の設立は、2007年11月。永く、優秀な人材や技能実習を海外に派遣するなど、人材派遣会社としての実績を誇る。研修センターでは、まもなく、日本に入国する技能実習生の日本語の授業風景を視察したが、ゴミの分別や資源のリサイクルなどのポスターを張り出し、日本の基本的な生活習慣を学ばせることにも力を注いでいた。又、同社は、ニット素材(編み物)を裁断(cut)・縫製(sew)して作られる衣服(カットソー)の輸出も手掛けていた。 又、本社に併設して、全寮制の威海立派教育職業中等訓練学校(3年制)も経営。日本語、韓国語、英語の学部が設けられ、1,2年生を中心に200人の生徒が学んでいた。(3年生は、企業実習) 代表は、張 春雷さん。日本留学の経験もあり、流ちょうな日本語で、当事業団とのパートナーシップの構築に意欲的だった。


 

3.南京邁特望科技股フェン有限会社(江蘇省)について

張 宝明会長は、永く、日本に滞在(13年間)し、システム開発に従事。会社は、日本の日立ソフトの販売会社として設立。以降、システム分析・設計、データベースシステム構築に従事し、WEBソフトウェア、スマートモバイル端末の開発および関連サービスを提供してきた。介護ソフトのシステム開発にも着手し、既に、全国40~50の介護施設で採用されている。特に、2015年には江蘇省のTVを通じて介護サービスを受けることができるシステム開発に成功し、翌2016年秋には上場となった。 又、2004年から、学校(教育センター)経営に乗り出し、現在8校の専門学校を運営している。この7月には、同社が母体となって、介護教育センター「江蘇邁特望教育培訓中心」をオープンさせる。施設は、4月に完成。7月からの開講に向け、下記のように、日本からの介護用具、備品の搬入も始まっていた。


又、今年3月、張 会長は同社の幹部職員を連れて、日本の特別養護老人ホーム、在宅系の介護施設を視察した。中国の養老事業との比較では、中国にはサービスの概念がなく、ハード面では介護用具、ソフト面ではサービス精神の遅れを痛感し、帰国後、幹部社員を対象に、サービスへの意識改革を実践したという。 来年4月には、日本式の「おもてなし」の介護サービスを取り入れた、50人収容の小規模多機能の介護施設を開設する予定。 そして、福祉機器、介護用品の販売などと合わせて、総合福祉産業への展望を力強く語っていた。(張 宝明会長談)

3.各施設見学について

長年、『一人っ子政策』を実施してきた中国の高齢者問題は特に深刻なこと、同時に、養老事業が黎明期にあることを、改めて実感した視察となった。
訪問した江蘇省の2014年度の高齢者人口(60歳以上)は1,579.3万人。中国の各省の中でも最も高齢化が進んでいる。又、大都市を中心に、高齢者の意識も、家族介護から社会的な介護へと転換しつつある。その特徴は、以下の通りである。
①中国の高齢社会の到来は、近代的な産業化社会になる前に現れたもので、十分に資産の蓄積ができないまま高齢を迎える、つまり、富ができる前に老いる状況にある。加えて、高齢者向けの平均的な年金水準が低いため、当面、高齢者人口の拡大による低収入者の増大が、社会貧富格差の拡大につながるとみられる。
②もう一つの特徴は、高齢化社会に備える社会的な仕組みができないうちに老いることである。 こうした中で、中国政府は、『90・7.3』の養老モデルを制定した。90%の高齢者は自宅で暮らし、7%の高齢者は在宅で生活支援、介護サービスを受ける、3%は有料老人ホームに入居させる代物だ。
しかし、①公営機構の資金不足②土地価格の高騰③専門的介護人材の不足に直面し、老人ホームの運営整備の進捗は遅れている。そこで、政府は、民間の力を借りて、老人ホーム事業を積極的に進めようとしている。
最初に訪問した、万福苑養老は高齢者向けの療養型病院、リハビリセンターと建設中の老人ホームが併設される民間の複合施設。高齢者病院入居者の40%は、認知症という。
ちなみに、施設案内をしてくれた、介護主任(33歳)の月収は、4,000元((約7万円)とのことだ。 聞けば、現行の介護施設における経営に占める固定的な経費のうち、土地高騰を受けた地代家賃が50~60%を占め、人件費率は25~30%に留まっている、と言われています。介護人材の絶対的不足の背景に、低賃金構造もあることも見逃せない実態です。
この複合施設を取り巻くように建てられた団地群には、在宅介護支援所が設けられ、道路を隔てて、低所得の高齢者への介護サービスを提供する威海 栄成市の社会福利院があり、高齢者福祉のモデルの街になっている。


次に、威海市のリゾート型の超高層、大型施設で、養老事業を展開してる、盛泉集団有限公司を訪問したが、不動産デベロッパーの投資家だ。 建設中の高層マンション群の一角に、2,000床の老人ホームと4棟で500戸の高齢者住宅を建設していた。 2007年に老人ホームを初オープン。養老事業を産業化し、養老事業で1番を目指し、標準化とチェーン化で、300施設の確保を目標としているそうだ。


南京では、九如城養老産業集団を訪問した。
ディサービスのモデルルーム、在宅介護サービスの管理センターを視察したが、ハード面でのインフラ整備は、日本をしのぐ勢いだ。
南京市では7つの区で高齢者40,000人が登録。同管理センターでは1,000人の登録者を一括管理し、70箇所、700人のヘルパーさんの稼働管理を行っていた。
又、同管理センターには、富裕層向けの有料老人ホーム、リハビリ施設と併設されており、健康で自立した高齢者から体の不自由な医療ケアを必要とする高齢者まで利用可能な複合施設となっていた。


近年は、国外企業との合弁会社を設立の動きもみられる。威海、南京とも、市の投資促進センターや同局とも懇談したが、あながち、偶然ではなく、期待も散見された。

日本企業との連携で、施設管理、人材育成の分野で双方の交流を進めたいとのことであった。

いずれにせよ、中国の養老事業は、政府による対策だけではなく、様々な領域で民間活力が活用され、在宅系の介護サービスも含めて中国版のモデルを模索しているところであろう