調査研究

千田透の時代を読む視点(2)
「介護職員の処遇改善、加算ではなく基本報酬で」

シルバー産業新聞2016年12月10日号


 月額1万円相当の処遇改善を行うための具体的策について、11月16日に開かれた社会保障審議会介護給付費分科会で審議が行われた。
政府として介護職員の処遇改善に取り組む背景にあるのは、介護人材不足の問題であり、介護職員の給与が全産業平均と比較して10万円ほど低く、有効求人倍率が1・5倍以上高い水準になっていることである。
厚労省が示したのは、来年4月に臨時の介護報酬改定を実施し、現行の処遇改善加算を拡充する案だ。介護離職を防止するためにも、処遇改善をしっかりと行っていく必要があるのは言うまでもない。ただ、それを加算という手法で行うのが良いのかについては、議論が必要であろう。
現行制度では、加算の対象となるのは介護職員のみである。費用についても、職場の環境整備や研修費用には充てられない。このため、介護職員の給与さえあげれば、人手不足の問題が解決するという単純な発想に終始してしまっている。
厚労省の説明では、これまでの処遇改善の実績として、4万3000円相当の効果が出ているとしているが、有効求人倍率や離職率は全産業平均と比べて高いままだ。賃金だけを改善しても、期待する効果が十分に出ているとは言い難い状況である。必要なのは職場環境の整備や質の向上など、処遇全体を改善できる仕組みであり、そのためには、加算ではなく基本報酬で評価する形に切り替えるべきである。
また、臨時の介護報酬改定を行うことについても課題が多い。期の途中での改定になるため、保険料を決める介護保険事業計画には、その分の費用は計上されていない。そうした影響を考えるのであれば、交付金の形で実施する方が望ましい。また、1年前倒しで引き上げた分、2018年度の介護報酬改定が引き下げにならないか心配である。
今回の処遇改善加算の拡充案では、昇給と結びついた形でのキャリアアップの仕組みを構築する事業所を手厚く評価する考えだが、将来的にも継続して定期昇給させるための財源をどのように確保していくであろうか。報酬改定の度に政治判断で処遇改善加算を引き上げていくにも無理がある。
議論が必要なのは都市部や地方、法人格の違いなどがある中で、そもそも介護職員の給与をどこまで引き上げるのか。これまで実施してきた処遇改善策が、介護職員の入職や離職防止にどのような効果を上げたのか、また、上げなかったのかについて評価する必要がある。そうしたことなしに、介護職員の賃金を引き上げると言っても、果たして何を根拠に「1万円相当」なのか、理解し難いのである。
繰り返しになるが、介護離職を防止するためにも、処遇改善は必要である。そのための方法については、さらに議論していく必要があるだろう。