千田透の時代を読む視点

市町村へのインセンティブ。国が標準的な形を示せ

シルバー産業新聞2017年4月10日号

 


現在、国会に提出されている「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案」。法案が目指す、地域包括ケアシステムを深化させていくための取組みを、市町村がしっかりと行っていくのは当然のことだが、その手法については気になるところがある。
改正法案では、全市町村が保険者機能を発揮して、自立支援・重度化予防に取り組むための仕組みとして、①データ分析を基に介護保険事業計画に介護予防・重度化防止などの目標を記載②要介護状態の維持・改善度合いなどの実績を評価③結果の公表④インセンティブの付与――のPDCAサイクルを制度化する内容になっている。
この中で、要介護状態の維持・改善度合いなどの実績評価に応じて、インセンティブを付与するというのは、市町村ごとに実情が異なるため、かなり無理があると感じている。
そもそも、要介護状態を維持・改善するための仕組みは、客観的には解明されていない。そこが国から示されていない中で、単に維持・改善の結果だけを評価すれば、過度な自立支援サービスが組まれたり、要介護認定の審査が厳しくなったりなど、変に現場が先走りしてしまう恐れがある。インセンティブが付与される以上、保険者としては認定率の低下や、介護費用の改善に力を注ぐのは当然の流れであり、それが行き過ぎた形の抑制とならないよう、住民・国民の目でチェックしていく必要があるだろう。
要介護状態の維持・改善の度合いに着目するのでれば、現在の要介護認定のあり方が、本当にそれでいいのかという議論にもなってくる。例えば要介護度を7段階から、軽度・中度・重度の3段階すれば、維持・改善の度合いなどの評価も変わってくる。もっと言うと、現在、利用しているサービス自体が、標準化されているのかどうかという話にもなる。要介護状態ごとの標準的なサービス利用例というのは、介護保険制度を創った時にしか決めていない。要介護度の維持・改善を評価するのであれば、こうしたことも、セットで議論していく必要があるだろう。
また、インセンティブについても、自治体が積極的に自立支援・重度化予防に取り組んだ結果として、インセンティブが付与されるような形なら分からなくもないが、ペナルティーのような形で交付金が減らされるようなものであれば、市町村が主体性を持って地域包括ケアシステムを構築していく形にはならない。自治体によって人的・物的・地理的条件も大きく異なっている中で、大事なのは国が責任をもって標準的な形や指標を示していくことが必要なのである。