やがて外国人介護人材も来なくなる日本
その時日本の介護は
2022年11月7日
一般社団法人国際介護人材育成事業団
理事長 金澤剛
初めに
コロナ禍の時代、日本の国力の衰退は徐々に目に見えるようになってきた。
特に21世紀には実際が訪れてくることが予定されていた「少子高齢者社会」の現実到来は予想以上に国力の圧倒的低下をもたらした。
一方、その現実に目を向けることなく、かつてのJapan as No1と呼ばれた時代の夢からいまだ覚めていないのが、どうも日本の毎日の日々のようだ。
その実例をあげるのには枚挙にいとまがないが、たとえば技能実習制度の見直しの件も然りである。
国は、国連などから「現代の奴隷制度」などとアラームを鳴らされ、何とか見直しの腰を挙げようとアドバルーンを挙げつつあるが、それ以上に進んでいるのが、肝心の実習生並びに候補者達からは敬遠されつつある現実である。
国際的アラームは賃金未払、非人道的就労実態を指すのであるが、それも然りであるが、例えば介護職種などでは、そのような実際はほとんど見ることがなく、ただ一部には確かに行われ、何とか根絶をするのが我々関係者も含めての義務であるが、それ以上に注視しなければならないのは、日本の国力そのものが年々衰退しやがて出稼ぎ先対象国から外され、対象者の入国が皆無になる可能性の予感に現実味が見え始めてきたことである。
確かに技能実習制度の制度的「嘘」が露呈し始め、それを取り繕う方便として「特定技能制度」を創出しなかなか稼働することはなかったが、近年コロナ禍の情勢変化の力を借りながらも徐々に動き始めて様だ。
昨年は数年前に、新しく制度化された特定技能労働者数が技能実習計画認定件数を上回り、かつ技能実習制度の目玉であり、今後の制度維持の中心的役割を果たす3号技能実習計画認定件数の増加数は介護職種などでは、皆無に近い状態である。
また、肝心の技能移転に関しては、例えば、介護職種などでは、日本で実習する介護は、母国にとってそれを業とする社会的条件が揃っていない状態にあり、現実的には建前さえ 意味をなさないことの表れの一つでもあるようだ。
制度の目的は、ただ労働力の不足に悩む農業などの一時産業、あるいは町工場、重労働を伴う工業、あるいは若者から敬遠されてきている単純労働など総じて「3K職場」と言われる現場などに外国の労働力に担ってもらう。
その手段として途上国との賃金格差を最大限利用。
ただそれだけの事なのである、高邁な理念などは,単に方便に過ぎず実際は「現実離れした方便」に過ぎないのである。
現実は、肝心の日本が先進技術国としての前提で成り立っている制度にも齟齬が生じつつある。
例えば、2020年OECD報告によると、年間平均賃金にあっては今や韓国にも抜かれ一人当たりのGDPもかつては世界2位3位に位置していたものが31位に低落し、韓国28位、台湾15位と引き離されつつある。
そしてまた、最低賃金に至っては韓国は2022年962円2023年1010円(予定)であり東京水準、最早大阪基準も超える様だ、まして地方水準は水があげられつつあり、また伸び率も10年前比で98%増である。
昨今の円安基調は、爆買いツアーの再来はともかく、出稼ぎ先として日本は徐々に敬遠されつつ有り、例えば、現在実習生の主流を占めているベトナムでは、韓国、台湾、マレーシア、ドイツなどに人気が移り日本行は減少しつつある。
情勢変化にも無頓着で、勝手な解釈のままで能天気な状態が継続されているのが現状のようだ。
このような手前勝手な解釈を基に存続に、疑問を持つことにない陳腐な制度もそろそろ実習生側から敬遠され、現実的に利用する側が見直しをし始めているのが現実である。
それにも増し、日本の少子高齢化の現実は、圧倒的な介護人材不足の深刻度はますます深くなり、政府は「介護の合理化」、「省力化」の施策を講じているが,深刻度の深まりを埋めることはできないようだ。
肝心の人材は外国人介護人材抜きにしては今後成り立たない日本で、近々それらからも疎遠にされる方向に向かっている現在、何とか外国人介護人材に選ばれ、かつ共存していく手段方法を模索することが、今こそ必要になっているようだ。
「21世紀の奴隷制度」など国際的に揶揄されて、そのことにさえ手をこまねいている現状とは無縁にもっと本質的な危機が訪れようとしている。
さて、本稿にあっては
現状を今一度点検し、その後なんとか今後人材確保の方向性など具体的かする作業の端緒につくために少し整理を試みよう。
Ⅰ 技能実習制度の見直しの件
Ⅱ 肝心の実習すべき日本の介護とは、そして機能する社会とは。
Ⅲ 送り出し国の発展過程と海外出稼ぎ、社会的介護を必要とする社会との関係
Ⅴ 終わりに
等を課題にして荒く記してみる
尚 それぞれの課題の深堀は別稿にて記す予定にしている。
Ⅰ 技能実習制度の見直しの件
遅々として進まない見直し作業をしり目に実習生側から制度を敬遠されるようになってきた。
技能実習制度の破綻
* 古川禎久法相は本年7月29日、技能実習制度を本格見直しへと発表
年内にも有識者会議で議論を開始し具体的な制度改正に向けた議論を進める方針とした。しかし、その後内閣改造で新任した葉梨康弘新大臣になったが、現在のところ新たな動きがないようだ。
調べたところ、新大臣は今のところ見直し作業に消極的らしい。
* 以前より設置されていた「技能実習制度の見直しに関する法務省・厚生労働省合同有識者懇談会」の報告書によると、
技能実習制度の見直しの方向性は
1 不法労働、等の発生を防止するため、監視を強める、
2 技能実習実施機関、管理団体の育成に努め優良な団体の育成に努める、
等の一般論に終始し、その結果は2019年に改定され技能実習制度に反映されたが、それでも、元凶の転職の自由問題は課題、あるいは、優れた日本の技能を途上国の若者に実習させ、それでもって途上国の発展に寄与するとの理念の現実性に関しては、検討のテーブルにも挙がってないようだ。
どうも今回の抜本的改革のアドバルーンも、結論は危ういことであろう。
* 現場の現況は
特定技能介護在留許可外国人数
10,411人 出入国在留管理庁2022年6月報告
技能実習計画認定数 団体管理型
8,369人 外国人技能実習機構2022年報告
特定技能介護在留者数が上回っている。
これは
1 コロナ禍にて入出国制限などが起因したと思われるが、だがしかし、これをきっかけに技能実習制度利用が下火になる予想。
2 介護技能実習3号取得者がほぼ皆無に近い
2022年外国人技能実習機構の報告によると介護技能実習3号計画認定件数 団体管理型では全国で111件
2021年報告では介護技能実習2号計画認定件数 団体管理型では5,266件であるので、結果的には3号移転はほぼ皆無に近い
ちなみに埼玉県の3号認定件数は10件であった。
この結果は 介護技能実習は介護特定技能に取って代わるあらわれだ。
3 地域偏在(都会集中)問題
* 介護特定技能労働者数は東京圏に30%九州圏に6%
* 介護技能実習計画認定件数は東京圏21%九州圏12%
* 老人福祉施設数は東京圏に22.1%九州圏8.13% である
今回はコロナ禍の為新規入国者がほぼ無く、すでに入国済みの実習生留学生等が対象者の為、明確な分析には条件が不足であるが
若干都市に集中する傾向を見ることが出来る。
4
コロナ禍や他の理由で特定技能資格取得の試験はベトナム、中国では実施されず、またミャンマーなどではほぼ実施されずであったが、他の国々では盛んに実施され多数の合格者を出している。
しかし、送り出し国などとの調整が進まないのと、コロナ禍の為か合格者に在留許可がほとんど降りず待機状態が継続されている。
その中で、2021年、2022年に特定技能の資格にての就労者はほぼ技能実習の資格変更か、国内試験合格であろう。
コロナ後の入国が可能になってきた現在、多量の入国の可能性が出てきた。
以上のように様に政府が重い腰を挙げ陳腐な方便で運用をしてきた技能実習制度の見直しも、特に介護分野では実習生側から現実に制度利用を避け、より実態に近い特定技能制度を選び結果的に国の技能実習の見直し作業などより現実運用が加速され結果的にその陳腐化の速度が速いようだ。
現実的には技能実習制度も運用側からの破綻が始まったようだ。
(図表-1)介護特定技能、技能実習制度国別利用者数(総数以外は一部国のみ記載)
|
外国人数 |
技能実習計画認定数 団体管理型 |
|||
総数 |
Ⅰ号 |
Ⅱ号 |
Ⅲ号 |
||
総数 |
10,411 |
8,369 |
3,984 |
4,274 |
111 |
インドネシア |
1,797 |
1,798 |
1,024 |
728 |
46 |
フィリピン |
1,308 |
516 |
255 |
261 |
0 |
ベトナム |
4,294 |
3,168 |
1,228 |
1,929 |
11 |
ミャンマー |
1,145 |
1,521 |
792 |
722 |
7 |
タイ |
52 |
128 |
66 |
62 |
0 |
出入国在留管理庁2022年6月末 外国人技能実習機構令和3年実績報告
(図表-2)
介護特定技能在留者都道府県別数 養護福祉施設都道府県別数(一部都道府県のみ記載)
|
|
特定技能介護外国人数 |
% |
養護老人福祉施設数 |
% |
全国 |
|
10,411 |
|
7,340 |
|
東京圏 |
|
3137 |
30% |
1,667 |
22.71 |
|
埼玉県 |
670 |
|
387 |
|
|
千葉県 |
484 |
|
360 |
|
|
東京都 |
963 |
|
516 |
|
|
神奈川県 |
1,020 |
|
404 |
|
関西圏 |
|
2,021 |
19% |
|
14.00 |
|
京都府 |
233 |
|
158 |
|
|
大阪府 |
1,132 |
|
414 |
|
|
兵庫県 |
514 |
|
337 |
|
|
奈良県 |
142 |
|
105 |
|
九州圏 |
|
1,002 |
10% |
597 |
8.13 |
|
福岡県 |
363 |
|
147 |
|
|
佐賀県 |
111 |
|
36 |
|
|
長崎県 |
34 |
|
75 |
|
|
熊本県 |
126 |
|
81 |
|
|
大分県 |
40 |
|
53 |
|
|
宮崎県 |
82 |
|
57 |
|
|
鹿児島県 |
111 |
|
101 |
|
|
沖縄県 |
135 |
|
47 |
|
社会福祉施設等調査の概況 厚生労働省2019年6月25日時点
(図表―3) 特定技能ルート別人数(総数以外は一部国のみ記載)
|
総数 |
試験ルート |
技能実習ルート |
総数 |
87,471 |
20,534 |
66,435 |
タイ |
1,793 |
145 |
1,648 |
ベトナム |
52,748 |
10,761 |
41,852 |
ミャンマー |
4、107 |
1,561 |
2,561 |
「特定技能試特定技能試験実施状況(2022年6月末)によれば
□国外、国内、特定技能試受験者数 合格者数
介護技能受験者数51,035人 合格者数 34,371人(国内21,034、国外13,330)
(厚労省、2022年6月末)
であり、試験実施国は、タイ、カンボジア、フィリピン、モンゴル、インドネシア、ネパールなどであり、ミャンマーと違い盛んに試験が実施されている。
国内試験も各県でほぼ毎日のように実施されている合格者は増えるのみである。
直近情報
ミャンマーもついに現地試験が再開、計画された
特定技能試験スケジュール : 2022年10月25日~31日 – 6回
11月1日~19日 – 14回
(厚生労働省ホームページより)
しかし12月以降はまたミャンマーだけ計画されていない。
5.日本人の新卒新規介護入職者はじり貧であり、いやそれ以上に皆無に近づいている。
新卒者採用実績は、福祉医療機構調査によると、2018年調査であるが以下のようであった。
少々古いデーターであるが
【1施設当たりの新卒者採用数は平成29年度から3年連続で減少、53.2%の施設では平成31年4月の採用者なし】
平成29年度以降の新卒者採用数の推移をみたところ、1施設の平均採用数は平成29年度の1.22人から減少を続けている。
平成31年4月の採用数は「採用なし」が454施設(53.2%)と半数を超え、「4人未満」の採用341施設(40.0%)であった。
なお、平成31年4月の採用計画数は平均2.41人で、採用を計画した640施設のうち、平成31年4 月の採用を見送った施設は258 施設あった。
(福祉医療機構「平成29年度『介護人材』に関するアンケート調査の結果について」(平成30年2月調査実施)
6.介護施設などの新規入職者は外国人就労者が占めるようになってきた。
外国人雇用状況届け出まとめ(厚労省)によると、2020年10月末段階で、介護を含む「医療・福祉分野の外国人労働者数」は43,000人である。
これは前年度より9,000人増で
* 実態は若い介護職員の新入職者は徐々に外国人の「介護特定技能労働者」が中心になりつつあるようだ。
* また今のところ外国人介護就労状況は就労希望者過多の状態が継続し、外国人介護人材採用に方針決定した施設は人材不足が解決し、将来に向けての雇用計画、あるいは事業計画をも描ける程になってきている。
Ⅱ 肝心の実習すべき日本の介護とは、そして機能する社会とは。
技能実習制度は陳腐化しているとはいえ、その理念に、優れた日本の先進技能を途上国の若者に実際に実習、会得させ,それをもって母国の発展に寄与するとのことである。
そのため前提として途上国の発展に有用な技術、技能であることが必要。
だが、他の職種も一部を除きそうであると思われるが、少なくとも「介護」は途上国にそのまま持ち帰り母国に有用性があると認知される技能ではない。
言葉を変えれば、たとえ持ち帰ったとしても業種として成立する社会状況が必要であり、それが無ければ仕事として成り立たないのである、飯が食えないのである。
日本で実習する介護は、強く日本社会の変遷の過程から生まれた技能であり、そのまま母国持ち帰ったとしても機能はしないのである。
このごく当たり前の実際を無視しながらも、いまだ建て前がまかり通っている馬鹿らしさはともあれ、改めて日本で言われる介護につき点検してみよう。
そのため、日本で言われている介護につき、少しその出自を調べ本来、実習し持ち帰るべき「介護」とは何か見てみよう。
1 現在語られている介護とは
特にここで語る介護とは、古くから語られて来た家事としての介護から、今日この頃イメージされる「社会で行う介護」 したがって「国が責任を持つ介護」の事を云う。
その意味で狭義には、制度的な介護の始まりである2000年の介護保険制度の始まりとからと言い換えることが出来るが、その必要は昭和30年代の高度経済成長期の社会変化がもたらせた産物ともいえる。
いくつかの指標からみても、高齢者介護が社会的介護の必要になった時代は1960年代の前半からのようだ。
①
平均世帯人
(1953年) 5.0人
(1960年) 4.1人
(1970年) 3.4人
(1980年) 3.2人
(2000年) 2.7人
1960年代に核家族化が進み夫婦と子供だけの世帯が1965年には62,5%に達し、その後は一人世帯数も増加 家庭介護力の低下
②
高齢化率
高齢化率 65歳以上の人を15歳~64歳の人が支える人数
(1955年) 5.3% 11.5人
(1960年) 5.7%
11.2人
(1970年) 7.1% 9.8人
(2000年) 17.4% 3.9人
(2020年) 28.9% 2.0人
(2030年) 31.2% 1.9人
やはり60年代を境に、 家庭介護力の低下のみならず社会総体の介護力の強化を必要としてきている。
③
大都市圏人口総人口割合
(1955年) 37.2%
(2015年) 51.8%
年々地方では人口減少に拍車がかかり「限界集落」の増加―従って地方における高齢化率の増加が特に著しい
④
平均寿命 男 女
1955年
63.60 67.75
1970年
69.31 74.66
1980年
73.35 78.76
1990年
75.92 81.9
2000年
77.72 84.6
2010年
79.55 86.3
2018年 81.25
87.3
寿命の高年齢化の伸びは社会全体の対処が急務であり、その結果でもある、また健康寿命の高齢化も含み世界第一の実現は日本の介護実現の効果である。
2 今我々が語る介護は理念としては、戦前から実践してきた社会福祉活動を支えてきた「慈善的」価値観が源となっている。
当時、介護は家事行為であり「家」の仕事であった。
経済的、身体的あるいは身寄りの無いなどの特別な事情を抱えた人のための「救済」「支援」として社会福祉活動が今で言う「介護」の源流でもあった。
それが高度経済成長期の社会変化を境に介護は家庭から社会全体で処する事業として位置づけを変えざるを得なかった。
一方、高齢社会の到来は高齢者による医療需要の高まりが必然化し、病院入院の需要も高まった。
それまで病院入院施設は感染症あるいは精神疾患、整形疾患などの治療が主な疾患であり老人医療対応は未整備であった。
その結果、ただ社会から隔離を目的にしたとしか思えない社会的入院なども横行したのであった。
社会的に病院入院は、即社会活動を停止することが社会的にも合意されていることである、
誰も病院入院患者に対し社会活動をしていないことに不平を言うことはない。
入院とはこのような特権を付与されることなのである。
そのことが、老人が入院すると社会活動の停止を強制されることにもなるのである。
高齢化に伴う疾患の出現が常態化する以前の入院治療はそれでよかったが、高齢化の進行はそれを陳腐化させた。
60年代から70年前半に社会問題となった「高齢者の社会的入院」あるいはその受け皿としての「悪徳老人病院」問題の発生原因はここにある。
又、そのことが医療の抱えるマイナスを否定解決する領域として「介護」が存在し、現代介護として理念的に純化し立場を作りあげるきっかけともなった。
その意味で、慈善活動を源にしてきた日本の介護はその倫理観を継続しながら、現実社会を維持する根幹として時代的変容をしてきたのである。
従って、今に言う、介護は当然日本固有の領域を持ち、それを外国に持ち出すのは、当然その国の歴史、社会、文化などの国情に合わせて変化させる必要があり、またそれを経なければ社会的にも機能することはない。
そのことが技能実習制度で言う、日本の優れた技能の伝習が途上国の発展に寄与するとの理念の非現実性を物語る事でもある。
3 介護の出自の一つである、医療 特に看護を出自としている流れから見てみる。
医療一般から老人医療の領域つくりそして介護の独立への道のりを、医療政策の変遷に従って検討してみよう。
① 1960年代 高齢者福祉政策の始まり
(高齢化率) 5.7% (平均寿命) 男 65.32 女 70.19
* 1961年国民皆保険成立
* 1963年老人福祉法成立
* 高度経済成長期に人が地方から都心へと流れ、その結果核家族化が常態となり、それまでの高齢者の介護は家族間の責任であるとされていたことが変化を要求され、国の責任とならざるを得ず、その時代背景が現代介護を生むこととなった。
*
低所得者に対する保護施策を超え、加齢に伴う介護ニーズを制度の対象に取り入れ始めた。
その意味で今に言う「介護」の性格の方向性を示し始めた。
* 全国社会福祉協議会の「家庭内寝たきり老人実態調査」により70歳以上の寝たきり高齢者の数やその生活実際の深刻さが次第に明らかになってきた。
* 「介護」との言葉が初めて法律用語として使われた。
② 1970年代 老人医療費の増大期
(高齢化率) 7.1% (平均寿命) 男 69.31 女 74.66
* 老人医療費の無料化
* 医療費増大
*
1973年高齢者の医療費無料化
この政策により、福祉施設と医療機関の負担の格差、並びに手続きの安易さから入院が増え社会的入院増大、老人医療費の増大が深刻化。
*
治療を目的とする病院では、スタッフの技能の性格の違いや、生活環境の面で介護を要するものが長期に療養する場として体制等が不十分との問題も噴出。
また医師、看護師などの配置の薄い病院が増大いわゆる悪徳老人病院問題が社会的問題として噴出
* 加齢に伴う疾患に対する医療対応の陳腐さが目立ち、生活の質の向上を取り入れた高齢者医療の必要が急務となってきた。
*
一方で、住み慣れた地域の中で生活を支援するとの観点から在宅福祉の重要性が高まり1978年ショートステイ事業の創設
1979年デイサービス事業の創設
共に老人福祉法に規定され利用料は公費
③ 1980年代 社会的入院や 寝たきり老人の 社会的問題化
徐々に医療と介護の分離政策の進行が開始された時代
(高齢化率) 9.1% (平均寿命) 男 73.35 女 78.76
*
1982(昭和57)年 老人保健法の制定
老人医療費の一定額負担の導入等
*
1983年特例許可老人病院制の設置
これにより高齢者入院数を増加させ、医師や看護婦などが基準より少なく配置することが認められ、介護職員を一定数配置する病院が認められた。
* 1987(昭和62)年 老人保健法改正(老人保健施設の創設)
* 社会福祉及び介護福祉法制定―国家資格として介護福祉士が生まれる
*
ゴールドプラン(高齢者保健福祉推進十か年戦略)の策定
それは来たるべき21世紀に発生する少子高齢化社会におこる社会保険費の増大、医療費の増大に対し、高齢者にかかる費用を医療と介護費用に分離し、保険制度も医療保険と分離独立させ長期安定を図る計画の提出。
これにより政策的に、介護が医療から切り離され、介護概念の独自化が強く求められることになった。
このことが現代語られている介護の性格付けの要素として強く影響している。
その性格付けのポイントとして
介護の共通認識としている3原則
(1)|生活の継続性
(2)|自己決定の尊重
(3)|残存能力の活用
④ 1990年代 ゴールドプランの推進 介護保険制度の導入準備時代
(高齢化率) 12.0% (平均寿命) 男 75.92 女 81.90
*
1990(平成2)年 福祉8法改正
福祉サービスの市町村への一元化、老人保健福祉計画
*
1992(平成4)年 老人保健法改正(老人訪問看護制度創設)
「老人家庭奉仕員」から「ホームヘルパー」へ名称変更
*
1994(平成6)年 厚生省に高齢者介護対策本部を設置(介護保険制度の検討)
新ゴールドプラン策定(整備目標を上方修正)
介護保険制度運用に向け、医療から切りはなされた介護領域の確定作業
⑤ 2000年代 介護保険制度の実施段階
(高齢化率) 17.3% (平均寿命) 男 17.3 女 84.60
*
2000年介護保険の成立
法そのものの基調は
対象高齢者の尊厳を保ちそれぞれの固有の能力に応じた日常生活を送ることが出来る様援助。
自立支援介護の提供。
具体的には
意思決定の尊重
有する能力(残存能力の保持、潜在能力の引き出し)に応じたケアの実践
みんなで支える公的保険
とした。
この主張が現代介護の基本基調となっている。
⑥ 2000年以降
2001年の医療法改正により療養病床の創設
2006年の医療保険制度の改革などを踏まえ介護療養病床などを廃止することなど計画され、徐々に高齢者療養を医療から切りはなし介護領域に特化する方向が計られ現在に至っている。
この医療から高齢者療養を分離し介護領域へと変化させていく政策の方向性は、取りも直さず介護の確立、あるいは介護概念の確立を要求されてきたのであるが、結果的に日本の介護は国の政策に色濃く影響され形作られてきた。
また現在に至っても、「介護」の持つ力の発見深化の政策化がすすんでいる、そのことにより日本の介護は新たな領域を作りあげる可能性も出ている。
またそれは、戦前から日本の社会福祉を現実的に担ってきた「慈善活動」を支えてきた心意気、あるいは理念に裏打ちされた「介護」と矛盾することなく進行し総じて「介護」と表現した。
現在進行中の件は、
国内の介護保険適用機関からの結果を集積し、利用者の状態やケアの履歴などを集積する「LIFF」と呼ばれるデーターベースつくりが進行中。
それは、科学的介護と言われている。
そのため介護は戦前からの社会福祉活動を源流とするそれと、少子高齢化社会に対応すべく医療との分離から生まれたそれとを源流にしている2流の合作である。
良いことにこの2流は上手く合流し流れている。
現在の介護の流れ
得てして統一した言葉で「介護」が語られることもないのも「介護」の実際である。
そこで国は介護保険導入後介護報酬要件により概念確立のために政策誘導をしてきた。
その結果の有用性の検証も可能となってきたことも事実である。
有効な介護行為の確定もそろそろ可能になりそうな段階にもなりつつあるのかもしれない。
そこで国は、2010年代末期より介護報酬要求項目に行為結果を報告することを促し始めた。
体制推進加算の介護報酬項目化である。
この情報の蓄積は、一面では介護のエビデンス作りであるし、一面では介護人材の不足に対しての「合理化」への模索でもある。
これにより介護そのものの基準の統一性などの実現と、それに伴う介護の陳腐化の恐れが常に伴うが。
ますます増える介護の需要
だがしかし、高齢化の進行と介護を担う人材不足はますますの乖離を倍加しその深刻さは介護サービス実施が不可能になる予感さえするようになってきた。
そのため国は「介護の合理化」あるいは機械化、はたまた「介護助手」の導入など企画しているが、果たしてそれで間に合うのか、あるいは有効なのかはいまだ不明ではあるが、現実として介護の需要だけは右肩上がりに増えることは確かである。
Ⅲ 送り出し国の発展過程と海外出稼ぎ、社会的介護を必要とする社会との関係
1. 海外出稼ぎの件
発展途上国から先進国への発展過程は当然段階がある
外国への送り出し国から―国内就労先充足国へ
産業の工業化
農村型社会から都市型社会へ
農村から都市への人口流動=家庭介護力の崩壊
国内就労=海外出稼ぎの終焉
家事としての介護から―社会全体の事業としての介護への変化
アトランダムに外国出稼ぎが終焉する国への変化条件を挙げれば上記の様であろう。
「国際移動転換理論」との論がある
開発が進むにつれ出移民が増加し、さらに開発が進むと出移民が減少し、入り移民が増加しあるポイントで出移民と入り移民の数が転換する、との理論である。
考えて見れば当たり前のことでもあるが。
それはともかく転換点の事であるが
2020年の国際通貨基金(IMF)の報告書によると
『新興国への移民は1人当たり国内総生産(GDP)が2000ドルを超えると減り、先進国への移民は7000ドル程度で減り始める』と「GDP7000ドル」が送り出し国と受け入れ国の転機点になるとしている。
とのことである
確かに、かつて技能実習生の最大の送り出し国であった中国は2013年に一人当たりGDPが7000ドルをこえた。この年に減少に転じ2020年末には63,000人となりピーク時のより約4割減になった。
現在の最大の技能実習生送り出し国はベトナムである、ベトナムも2020年は2,278ドルであるが仮に過去10年平均の7%の成長率を維持したとしたら2030年初頭には7,000ドルを超え中国と同様になる。
タイの一人当たりGDPは2017年に6,595で18年には7,295ドルで7,000ドルを超えている。確かにベトナムからの実習生が20万人を超えているのに対し1万人弱である。
ミャンマーは2021年1,216ドルであり政変の常態化の国内事情もあり7,000ドル超は推計が出来ない。
2. 高齢化率に関して
日本の場合介護が社会全体の事業として必要になるのはおおむね高齢人口が5%後半に達した1950年後半からである、また社会福祉政策の中心として国の最大課題と位置付けられるのは14%を超えた高齢社会の到来期からである。
それを基に各国の介護が社会全体で位置付け必要になる年を推計
高齢化社会
高齢社会
(65歳以上人口比7%越え) (65歳人口比率14%越え)
中国 2002年
7.08%
2025年 14.03%
タイ 2002年 7.02% 2022年 14.15%
ベトナム 2017年 7.03% 2035年 14.10%
ミャンマー 2024年 7.15% 2055年 14.14%
である。
このように、現在の送り出し国は当然海外出稼ぎから就労先を国内にするのが、国の発展過程であるが、その発展は介護の社会化も必然である。
その結果として、統計的には中国にあってはもはや国内就労が主流となり、また「介護需要」高まりつつあり、一人っ子政策の結果との需要の高まりは急激になると想像できる。
また、安定的に経済発展を遂げているタイにおいても海外に労働者を送り出すより自国の需要が高まり、また介護の需要も、必要も現在生じつつある。
ベトナムだは先に記してきたように介護の需要が生じるには推計ではまだ間があるが、徐々に国内就労も当然増えつつあるが、今のところ国の政策も海外出稼ぎを推奨している。
この様に送り出し国も自国発展の努力は当然のことであるが、自国産業の未成熟の為当面海外出稼を続けざるを得ない国も多々ある。
だが問題なのは一方で受け入れ国それぞれが、それぞれに労働力不足が生じていることも確かである。
現実的には外国人労働者の獲得競争も時代とともに激しくなりつつ有り、仮に中国が受け入れ国に変化し始めるたら、その場合の激しさは想像できる。
またその時代到来は中国の発展速度からして、そんなに遠くはなさそうである
日本にあっては、日本行希望労働者が多数存在していると思いがちであるが、現実は年々国際競争力の激化、あるいは送り出し国の経済発展などで減少傾向にある。
またあっても希望者の減少などで、時間とともに供給不足が進行し始めている。
確かに国情が不安定で、就労先の無いミャンマーからの出稼ぎ労働者の流出は続くであろうが、おおむね他の国々は時間とともに減少するであろう。
またそれにも増し、日本の円安は日本行にブレーキをかけ、例えば韓国、あるいは台湾、マレーシア、タイ、ドイツなどへの流出の流れが激しさを増しつつある。
日本の円安基調は単に直近の傾向に止まらず国のポテンシャルの激減状況は先に記載した情報の他にも、国際競争力ランキングは世界34位(スイス国際経営開発研究所)と主要国との差が拡大中である。
から見れば、永続しそうで長期低落傾向は悲劇的でもある。
この様な状況からして、日本を出稼ぎ先として選ぶ外国人介護人材は時間と共にじり貧傾向が考えられる。
その状況の中で介護人材の需要はますます高じ、逼迫は想像できる。
このように推定できる状況は何年先か、あるいはもはや始まっているかは、少し情勢変化を見る必要があるが、傾向としては確かな様である。
さて今必要なのは、この何年先かの状況を想像して今我々は何に力を注ぐべきか考えておくべきのようだ。
問題なのは、現在実習中あるいは就労中の日本の介護が、今まで見てきたようにあくまで日本の介護であって、アプリオリにそのまま母国に持ち帰っても有用性に欠き、大半が機能しないのである。ほかの産業の様に技術そのもののノウハウを習得するならば持ち帰り有用性が発揮できるが、介護は社会的産物であり社会変化に応じて生まれて来る性格を持っている。
従って、現在実習中の介護は当然、現在の日本と似た社会状況の国にあって初めて有用となる可能性があるのであろう。
このことが最大の課題であり、かつ実際に実習生を受け入れ実習を実施している我々の最大も問題ある。
日本の国力の段階的低下、それにも増し母国に直接持ち帰ってもすぐには有用性の出ない実習中の日本的介護。
などで徐々に外国人介護労働者は日本を敬遠する傾向が生じるであろう。
Ⅳ 受けいれ実習機関の事業発展と実習生の将来計画。
今まで見てきたことを、改めて整理すると。
現在実習中の日本の介護は、あくまで日本社会の時代的要求から生まれ出た技能である。
実習生たちの母国の発展段階時は、現に介護は家事行為としての家庭介護の現状にある。
其の社会発展段階が海外で出稼ぎを生む主因でもある。
しかし現実に就労している実習生たちは一部を除きおおむねは出稼ぎが主題となっている。
従って、現実には一部を除き、おおむねは目的をめぐって問題は生じていない、問題となるのは賃金問題であり、就労条件の件である。
だがしかし、中国の様に出稼ぎ傾向が減じると同時に「技能実習」あるいはスキルアップを目的とした実習生もわずかながら目立つようになってきたことも事実である。
この様な状況の中で
受け入れている事業者側には受け入れ責任、あるいは雇用主としての責任があり、義務もある。
そこで課題は、受け入れている実習生の将来設計と事業体のそれが限りなく合致することを何とか実現することなのである。
そのため意識的に用意したい事項は
永続的に外国人介護人材を受け入れる体制を作る。
① 受け入れた外国人介護人材を丁寧に、人格を尊重し、将来の介護を担う人材として育成する
② 世に言はれる人格無視、あるいは労基法無視の扱いなどもっての外である
③ 採用した外国人介護人材のキャリアプログラムを合意のもとに作成し、それを実践
④ 技能実習制度、特定技能制度の実質的陳腐化に備える準備
その対策として、例えば
「企業内転勤」
送り出し国に支店を作り企業内転勤にて就労者の確保スキルアップ
技術 人文知識 国際業務ビザ。
技能実習企業単独型ビザ取得など考えられる
いずれにしても、循環スタイルの源となる相互理解、信頼が元
前提として、送り出し国に支店開設などを必要とする事業展開、計画が前提となる。
等々思いつくままに
また受け入れた外国人介護人材の当面の対策として
1 永住希望者には介護福祉士資格の取得条件を進める
2 帰国希望者には、日本語能力の向上など帰国後就労に直接役立つ技能の習得を援助する
3 事業者側は取りあえず、送り出し国に富裕層を対象とするなど介護施設の開設の可能性がありその事業推進希望であれば進める。
4 今後、年々日本人の新規採用が困難予想の為、外国人スタッフ中心の事業運営を企画しそれに向けた教育計画などを推進する。
5 その他
Ⅴ 終わりに
数年、いやその先かもしれないが、現状のまま外国人介護人材を受け入れていれば、それは気が付いたころ誰も見向きをしない介護現場、圧倒的に人材人員不足の介護現場が生まれるであろう。
政府は将来を見越してか、介護の合理化を盛んに推奨している、介護仕事の見直しと称して、機械化、介護助手の導入等々である
結構なことである。
確かに他の産業同様機械化の必要もある、例えばかつてベッドは電動に変わった、圧倒的に所謂合理化に寄与した、ほかにまだ人手削減のための機械化は進める必要がある。
だがしかし当然限界もある、例えば我々の対象者に認知症の利用者もいる、この対象者の介護と機械化は至難であろう、そして認知症状は今のところ高齢化に伴う普通だれにでも訪れることなのだから。
一方頼みの綱の外国人介護人材も先細りである。
問題なのはこの状況を我々介護現場でさえ、あまり認識想像してない。
例えば、外国人介護人材を採用すると当然戦力として有効活用。
そのため本人同意のもとのキャリアプログラムなどの作成が先進事業所などで推奨されているし、国もそれを推奨モデルとしている。
果たして?
それはEPA介護士、並びに看護師、そしてその候補者たちの在留数が示唆している。
何年かの苦労の結果看護婦資格、介護士資格を取得し、実質的に永住資格を取得した人たちが、結果として何人在留しているかの現実が物がっている。
そのことは考えればごく当たり前のことでもある、立場を外国人介護人材に置き換えて考えれば、おのずと結論は見えている。
このごく当たり前のことを我々含めて忘れ去っているのか、思考の外に置いているのかである。
例えば盛んに介護福祉士の資格取得を促している、
そのことは取り合えず長く日本で出稼ぎをするため、あるいは日本で習得している介護を深く理解するために必要である。
しかしそれがすべてはない、必要なのは母国にて生活するごく当たり前の手立てを習得する「何か」であろ。
そろそろ、採用する側、からの一方通行、独りよがりの外国人介護人材とのお付き合いを卒業したいものだ。
さて、そろそろ「介護人材の国際的循環」の作業に邁進しよう。
以上
2022年11月6日記