4年で介護福祉士資格を取得できる受け入れ施設になろう

 

一般社団法人国際介護人材育成事業団

金澤剛

2023年10月17日

はじめに

先日事業団第3期生を対象にしたアンケート結果の報告を知る機会を得た。

想像していたとはいえ、やはり衝撃であった。

我々が関与したミャンマーからの技能実習生うち、来年も2号実習を終了しその後の進路を決める結節点となるタイミングにて、それぞれの実習生がそれぞれに進路を決めることになる。

それを前にしての意向調査である、その結果は2名の他の全員11名が転籍、転職、希望であり、結果的に現在の施設を離れる希望者が圧倒的なのである。

このことは、実感としては我々の設立理念がカラ文句であり、実際は我々の自己満足に過ぎなかったことの現れと映ったのである。

または理念に基づいた目的達成がいかに困難かの表れか、あるいは手段方法の選択の間違いであったのかの反省を強いられたのであるようだ。

 

そもそも、我々の理念は「介護人材の国際的循環」を達成しその動きの中から「介護」のグローバルな質の発見を目的としたのであった。

そのために、当初の戦術として日本の介護現場における人材の絶対的不足対策として、途上国の若者を招聘し、OJT 方式により介護を学ばせ、技術移転実現するための人材の育成と、不足介護現場の人材供給とを合わせて達成するとして、技能実習制度を利用したのである。

その結果、ミャンマーからの若者を毎年20名前後各会員事業所に配置、斡旋してきたのである。

配置された、実習生はそれぞれに、極めて真面目に、かつ我々が思う介護人材としての特性を十分に発揮し、利用者からも感謝される結果をしめし、また本人たちも職場に満足な状態であった。

と認識していた。

それが先の結果であった。

このことは当然、採用する側とされる側の思いの違いの表れではある。

採用される実習生側の目的は「出稼ぎ」であって仕事先の獲得と母国への仕送りが目的の第一であり介護職の選択はその目的を達成するための手段である。

別の言い方をすれば、介護に対する思い入れを抱く動機もなく、それ以前にむしろ思い入れを深めるほどの介護に対する考えを持ち得る環境がなかったし、また出来ようがなかったのである。

また一方、採用する事業所側もあまりにもの人材不足の窮状が続くため、最後の望みをかけた外国人スタッフを採用であった。

従って、なぜ人材不足を招いて、その原因など精査し対策を練るなどの余裕もなくしての採用であった。

結果的に実習生が着任すると一安心で終わったのである。

どの様な人材を募集し、どのような人材に育て上げ、自施設の中でどのような役割を担い、将来の計画にどのように役立たせるか等の計画、言葉を変えれば人事計画無しの採用で,労働力不足の穴埋めとしての採用の結果が表れたのであろう。

言葉を変えれば、今まで介護人材不足をきたしてきた状況と全く同じ轍を踏んだのである。

これでは、今後時代の変化で予想される「日本に外国からの出稼ぎ労働者が来なくなる」時の対応は全く無力となるであろう。

しかし、このことは外国人介護人材を採用し、不足人材対策とすることを否定することではない、なぜならば、今やそれしか対策がありえない環境にあるからである。

問題なのはだからこそ、この手法の発展形態と永続化に務めなければならない。

そのため今現状を振り返り、課題、問題点を洗い出し改善に向かう必要があるようだ。

そのため以下の様に論を進めて行きたい。

     現状の確認と課題

     雇用施設側、外国人材側双方の問題-双方に変化の兆しが見え始めた

     そもそも技能実習制度では外国人材に何を求めているのか

     我々は外国人材に何を求めているのか。

     介護福祉士資格取得の困難性

     EPAにしても資格取得者が約3割に満たな理由と実際

     介護職にとって資格取得は必須条件のはずであるが

     なぜ資格試験に学科と実技の2分野に分かれているのであろう

     資格取得の条件の変遷

     なぜ資格と実際の介護の関係が曖昧になってしまったのか

     さて具体的に何をやるか検討してみよう

 

Ⅰ 現状の認識と課題

*介護技能実習2号終了後ほぼ全員が特定技能1号に身分を変更。

その結果移籍移転の自由を獲得し、流動化が常態化。

*日本人の働き手同様に地方から都市へとの傾向が強まる。

*職の専門性の選択より、待遇のより良い職種と職場を求め転職、転籍傾向が強まりつつある。

*11月に答申されるであろう国の「技能実習制度見直し有識者会議」の内容に条件付きであろうが、転籍の自由が記されることが予想されることでこの傾向は強まる。

*この傾向を如実に表しているのが事業団第3期生のアンケート結果である。

*しかし現場では人材不足の状況は変化なく、それより益々の不足が加速している。

*一方ミャンマーを除き、ベトナムに代表されるように、日本行希望者の減少傾向が強まりつつある

その傾向を、どう解釈し、対策を確定するかが我々に課された課題である。

 

Ⅱ 雇用施設側、外国人材側双方の問題

 双方に変化の兆しが見え始めた

制度のたてまえはともかく、現状は安価な労働力の確保と、母国では得られない就職先と高賃金を目当てに成立している制度である。

だがしかし、送り出し国の経済発展の進行、あるいは国際的労働力確保の競争などにより、昨今その様相に変化が見え始めた。

本質はやはり高賃金、高待遇、あるいは雇用側はより低賃金、雇用の安定を前提としての仕組みの継続であるが、しかしわずかながらも将来を見越した技術、あるいは関係の確保などを見越した就労先の選択、あるいは雇用者側には、自事業の将来を託す人材の確保並びに教育の実行などが自覚される傾向が強まりつつあることも事実のようだ。

要は、稼げるだけ稼ぐに重きを置く一過性の「出稼ぎ」から、あるいは安価な交換可能な労働力としての外国人材との双方の位置づけからの脱却が時代的要求となりつつあるようだ。

その傾向は我々に強く次のことを求めているようだ。

現状は賃金獲得と人材確保の大前提の目的であるが、介護職種の領域にあっては、実習生等には将来を見越した就労の目的と、雇用事業所側にも人事計画に基づいた雇用目的の具体化が求められつつあるようだ。

それは、あたかも国が制度見直しにより、単純労働者の採用に特化した制度に向け整理し始めている傾向とは逆行の体である。

だがしかし、現場の我々にはその傾向進化の状況などは、痛く理解できる。

それはまさに外国人就労者なども含めて事業の未来を託さなければならない程、質的にも量的にも人材が不足している証でもあるのであるが。

また、雇用した外国人の能力は優れている人も多数含まれていることを確認できたこともあるが。

 

Ⅲ そもそも技能実習制度では外国人材に何を求めているのか

そもそも、技能実習制度はその候補者に前職条件をかしている。

それは制度の「たてまえ」として帰国後に母国の発展に役立てる人材の育成のための技能実習であるためである。

そのため、例えば介護業種にあっては母国にて介護職の経験、あるいは介護、看護の教育を受けたことのある事等が前職条件である。

そのロジックからは、実習生になってからの職種替え、あるいは転職などは想定外のことであるが、現実は全く逆であり、それが常態であり、一般的な事なのである。

この様に制度は当初から陳腐そのものではあるが、そのほかに実習そのものも教育的視点に重きを置かれている制度などではない。

精々現場での就労を通して技術を見よう見まねで会得させるのが精いっぱいの仕組みである。

実際は1,2年かけて一人工としての単純労働が出来る様にするための制度であるのである。

また技能実習制度は専門職としての介護職の育成など求めていないし、働く側もそのことに関してはあまり重きを置いてないのが現実のようで「出稼ぎ」に徹しているのが趨勢のようである。

介護現場では例えば専門職としての登竜門として介護福祉士資格の取得が考えられるが、一般的に日常介護業務の中からは資格取得の道などとは見つけずらく、意識をして初めて資格取得が近づいてくる現実もある。

資格取得を目的にしたEPAなどと違い、労働提供を目的とした制度の現実なのである。

このことは、制度が労働力を求めている面と、介護業務は介護福祉士資格がなくてもが現場の実際の業務ができ、意識して求めなければ資格は取得できないからである。

それは例えば看護業務などと違い資格なしでも従事できる仕事であるからである。

ここに介護業務の専門性、あるいは外国人介護人材が介護の専門家を目指す場合の解りづらさの原因であろう。

 

Ⅳ 我々は外国人材に何を求めているのか

スタッフ不足に喘ぐ我々は第一にその充足のために外国人材を求めた。

そしてスタッフとして一人前の技量を持つよう育て上げることに努力した。

その結果1年を待たずして一人工の証である夜勤に従事できる人材に育て上げた。

だがしかしその次を明示することが出来ず、あるいはせず、一安心したのが現状である。

一方外国人材側も、外国である日本の介護現場の実際を理解し、かつ日本の生活にも慣れ、初めて日本の生活にもある程度自信を持ち、また仲間たち、あるいはSNS等からの多岐にわたる情報の取得により、実際の世界の広がりを獲得し、始めて実現可能性のある世界の広がりを拡大しつつあるのが現在外国人材であろう。

だがしかし悲しいことに、あらゆる意味で現実を直視する力に欠けるのも事実のようである、往々にして「隣の芝生」にあこがれているようである。                       

昨今の3期生の来年の希望の羅列はそのことの現れなのであろう。

 

着任した外国人材に対し、施設としての将来を語る事見せることができず、また出来たとしてもそれを了解しあうことがなく、ただ一方的に来年も、またその翌年も従事してくれるものと思い込んでいたことが露呈したのであった。

また受け入れ施設においてはそれでヨシ、必要となればまた新たに採用すればヨシとしているのであろう。

一方実際着任した外国人材も、日本で言う「介護」が何なのか体験することで理解できた結果、母国に帰ってもその仕事はなく、仮に近いものがあっても獲得する給料はけた違いなのが想像でき、帰国を前提とした仕事に介護は考えることが出来ない現実が理解できたのであろう。

またSNS情報などにより賃金も都市と地方の違いの情報も得て、高賃金を求めて移籍を望むのは当然の成り行きである。

 

また、皮肉なことに外国人材が介護現場に就労し一人前と認められるほど仕事に慣れ、日本の生活にも慣れる事は、当然日本における介護の職の評価、あるいはなぜ介護現場に人手不足が生まれるのかなどの現状を体験会得することになる。

それも転職、転籍の原因にもなっているようだ。

その意味で、現状では当然の流れである。

 

今必要なのは、自事業所のスタッフとなった外国人材に介護職の将来性の説明、そしてそれに基づいたキャリアプログラムの提示、そしてその説明と了解の確認なのであろう。

自事業所のキャリアアップ、また日本の永住の為にも、あるいは帰国後のキャリアアップのためにも取り合えず介護福祉士資格の取得が絶対有利であり、それよりむしろ今後のキャリアアップの前提として絶対条件であり、その取得を当面目的とする具体的プログラムを双方で作り上げ説明し、納得を得るのが今重要なようだ。

 

現在までは出稼ぎを目的にした単純労働者と、将来介護職として自立することを目的とした就労、採用との2種類の人材を含めた採用なのであるが、実習終了後またその後は実際のところ採用される側もする側もよくわからないのが本音なのであろう。

だが現在は、大多数がそうであるように、前者の出稼ぎを目的とした就労者の中でも、就労中にまた就労そのものの中に将来の夢を託すよう教育育成し、その結果介護職として意義を発見あるいは自覚し、その道を歩めるように導けば、それを望む外国人材も多数いることも理解できた。

その現実からも、それに答えるのが我々の責務であるようである。

しかしそれに答える力を受け入れ事業所が持ち合わせていないのも、散見されるようになってきている。

それはともかく、現在の受け入れ事業所は第一の目標として最短で介護福祉士資格を取得できる仕組みを作り実施、実行することが求められているようだ。

その準備と共に当初から、その道を歩める人材を募集、採用する仕組みを送だし機関と協議を深め、その仕組みを完成する必要も出てきている。

 

だがしかし一方で出稼ぎ労働を目的とし少しでも高賃金を求めることに徹した外国人材、あるいは2,3年の就労者を求める事業所の希望を決して否定するものではない。

現実的な雇用状況は当面この2種類が混在するであろう。

 

Ⅴ 介護福祉士資格取得の困難性

さてどのように実現するか

言うがやすし、である。

 

まずは、外国人材の側から見れば

先に記したように、介護は母国にあっては「家事」であり、たとえ業務としての介護があっても、職位としては下位であり、薄給仕事であり、何も日本で介護の仕事に就いたとしても、それは母国に帰っての仕事としては、実習生はみな本音としては捉えていないのである、また母国の事情は捉えようもないのである。

そのため、実際は永住の手段、あるいは職場の待遇の向上に、あるいは母国の介護を作る先導役、獲得した日本語能力を使用しての就労など、有利な将来の可能性などの具体的インセンティブを理解し、資格取得に向けたモチベーションアップが必須である。

 

一方雇用事業所側からは

資格取得により、自事業所の管理職用の人材として確保、そして外国人材採用導き役の確保と送り出し側との安定的ルートの確保、有期採用としての人材から常勤職員へと雇用の安定、また資格取得の為施設をあげて支援することにより施設全体の介護レベル向上、等の結果が考えられる。

 

だがしかし現実は

準備し実行することはEPA介護福祉士候補者と同様であり、いやそれ以上の苦労が伴う。

それは、EPAは資格取得を目的にした国策事業であるのであるが。

たとえばEPAにしても、2011年から2021年の11年間の平均合格率は約50%弱であった、その後は合格者の率を向上させるための策の実施などから上昇はしているが。

そもそもEPA候補者は純粋に資格取得のため来日、就労であり、候補者たちは母国の看護資格取得者かそれに準ずる人たちなのである。

それを、制度も目的も違う技能実習生、特定技能労働者を対象に実施するのである。

しかし、我々は困難を承知の上実施を試みよう。

 

Ⅵ EPAにしても資格取得者が約5割に満たな理由と実際

    日本の資格であって実際はN2以上の日本語能力を必要とする。

    日本の資格であるため、日本の社会状況等の必要から生まれたため、制度資格を生む社会状況、歴史などの実感を伴う歴史認識など必要なため。

    資格試験の内容と実務との直接の関係が結びずらく、学科と実技の2面の習得が必要であり、しかも介護の日常業務からはその関連性が結びずらい。

受験条件として日本人同様にEPA人材は3年の実務経験と実務者研修等を受講する必要があります。

以上の問題を抱えた結果、現実的には合格するために日常業務の他に以下の時間を要した個人学習を必要としている

EPA介護福祉士候補者にかかる全体的窓口となっている国際厚生事業団(JICWELS)が示す学習時間確保のモデルケースによると、

1~2年目―週7時間、   2年間で728時間

3年目前半ー週10,5時間、半年間で273時間

3年目後半ー週14時間、  半年間で364時間

計-1365時間

であるが、候補者、並びに受け入れ事業所によると950~780時間が実際確保できた時間のようだ。

この様にEPA候補者でさえ資格を取得するのに苦労をしているのが現実のようだ。

EPA介護福祉士候補者でこの様であり、まして技能実習生、特定技能労働者でおや。

である。

 

Ⅶ 介護職にとって資格取得は必須条件のはずであるが

本来 介護福祉士が持つ知識と技能介護職全員が持たなければならない基礎知識であるはずである。

しかし現実には

    資格は診療報酬の加算要件に使われたり、施設基準の必要要件に、あるいは外国人の永住要件に使われたりしている。

    だが介護現場においては、資格者と非資格者の業務能力の違いは確かに認知されているが、現実的な運営上は介護の専門性を物差しとする基準からは計られていない。

    しかし少なくとも、職業として介護に従事する場合は他人に介護を施すため、説明責任は必須である、そのため施す介護の根拠などを会得の必要はある。

従って現況ではその知識を持ち得ている証としての介護福祉士資格は必須アイテムである。

だがしかし現場の現実の介護は改めて介護福祉士資格取得と介護日常業務の関係を確認しなければならない程見えて来ないのである。

 

Ⅷ なぜ資格試験に学科と実技の2分野に分かれているのであろう

どうもそこに介護福祉士の役割が見えづらい原因がありそうだ。

そのため介護福祉士資格が生まれる時代背景と出自についてみてみよう。

 

1 介護福祉士資格創設の歴史と社会背景

*1987年(昭和62年)介護福祉士制度が国家資格として生まれた。

*21世紀に向かい少子高齢化対策の必要

高齢化により生活習慣病による長期入院が社会問題化し老人医療費の増大により医療費の破綻が叫ばれた

*悪徳老人病院などや、高齢者の社会的入院の増大などにより

老人医療制度を医療から切りはなし、介護保険の創設の必要性が検討され始めた

*1988年「老人保健施設」の創設

老健には看護婦の配置は義務づけられた。

介護職員は寮母が位置づけられたが、その質と施設の要求など時代に対し齟齬が生また。   

そのため中間施設である老健の制度設立前に寮母に対しての公的資格の付与の必要性が生まれた。

*21世紀に確定されている高齢者の増大に対し、ニーズに答えるのには民間のパワーを必要とされた、そのため、質の担保の為にも従事者に対し公的資格を付与する必要が生まれた。

等である

 

2 制度設計時の状況

隣接する職種が反対

全国民営職業紹介事業協会、日本臨床看護家協会、看護婦家政婦協会、全日本民営職業紹介福祉協会などの付き添い婦、家政婦紹介団体などの労働省所轄団体が反対

    日本看護協会の厚生省所轄団体が反対

結果

    の家政婦団体に対しては、在宅における家政婦の介護業務に対し介護福祉士に統号

    日本看護協会に対しては

㋑介護福祉士は看護婦の指示のもとに介護実施

㋺在宅老人を介護する場合は介護福祉士が看護婦の定期的な指導を受ける。

㋩養成施設の設置に対し

専任教員に対し看護職の確保、介護教育内容のガイドライン作成に看護職の参加、業務基準による連携方法と責任体制に対し看護職も参加,養成期間を保母同様に2年とし3年である看護職とは区別。

など決めることで、合意。

その政治的産物の結果が資格制度の成立である。

 

 結果的に、介護職の独自領域の曖昧さ、あるいは介護の専門性などの議論はなく資格制度だけが成立し、その議論の無さ、あるいは深堀の無いままに今に至っている。

その状況をリアルに表しているのが資格制度決定後、実質的責任者であった厚生省社会局庶務課長であった瀬田公和氏が述べていることが、すべてであり、それが今でも祟っている。

「福祉の分野は,玉ねぎと同じで、一見すると専門的知識、技術など、どうしても他の人に踏み込ませない一つの領域があるように見えるが、議論していくと一枚づつはがれていく、気が付くと全部とれてしまっていて、これだけはとの聖域がない、どうしても誰でもやれるという話になる。

福祉の心を持った方なら、どんな方でも福祉の領域では業務独占の資格などできないだろうと、初めに認識した、(中略)

素人と専門家との間は極めてあいまいで、ここが専門領域です、とは言えないのが福祉の業界。

そこが資格を作ろうなど考えた場合の一番の大きな問題」

と述べている

さてこれに我々どう答えるか。

また、このような状況からの生まれの為、便宜的に「学科」と「実技」の分野別試験を実施したのは当時の政治的配慮からなのであろう。

その結果いまだにその相関、あるいは関連付けは曖昧なままである。

それが現実の介護実践業務と資格の直接関係を曖昧にしている原因かもしれない。

 

Ⅸ 資格取得の条件の変遷

先に記してきたように資格取得条件も必要数と育成手段の変化で変わってきた。

①1989年(平成元年)第一回介護福祉士国家試験実施

②(平成19年)社会福祉士及び介護福祉士法の改正

㋑実務者研修ルート

実務経験3年以上+実務者研修修了者(6か月以上、450時間)

㋺養成施設ルート

履修期間2年以上+1650時間200時間=1850時間

㋩福祉計高等学校ルート

履修期間3年以上(1190時間から1855時間へ)

の3ルートの条件変更を決めたが、既得権者との調整の為

決定後実施まで約19年弱かかり、平成28年に実施、受験資格を変更

その理由は

*質量ともに不足する介護福祉士に対し、条件緩和することで、何とか補う

*介護職そのものの不足の典型として養成施設の定員割れが続き、実質的に3年間の実務者研修終了者が、受験者の9割以上を占めることになり、実質的に実務経験者の資格となっている。

その結果3年間の実務経験と、それ以外に必要な実務者研修の時間的、物理的分離が明確になり、当初から問題となっていた、「実務」と「学科」の分離がますます明確になり実務の中から根拠などを学び取る視点などが消失する実際となり、実務以外に実務者研修の講習参加が常態となり介護福祉士試験合格のための実務者研修との位置付けが固定してきた。

この様にあたかも自動車の運転免許取得の様に「学科」と「実技」の分野別試験が固定化し、その関連性を問うことが制度的にもなくなってきているのである。

そのため、受験希望者たちは日々の現場業務と別に実務者研修などの学科対応の時間を先にEPA候補者の例に示したように別に設ける必要が生じ、受験と実務の関係が絶たれることになるなど介護の専門性を検討する機会などがますます消え去る状況が続くことになる。

 

Ⅹ なぜ資格と実際の介護の関係が曖昧になってしまったのか

介護福祉資格制度の出自からも見えて来るように、資格取得の為には規定された実技と学科の知識を必要とする。

しかも「技術」は制度設立時に既存の現場勢力を認めざるを得なかったため、その勢力が実際の作業している技術等をそのまま技術とし、ただそれを習得する時間、年数を必要条件としたのである。

また「学科」は、制度を生まざるを得ない社会状況と背景などを基にした知識などを必要条件とし、ほかに看護世界が持つ基礎看護の中で介護領域に必要な知識を学科としたのである。

資格試験にはこの様な性格と質を求めたのであったため、実際の介護に必要な学科と実技の関連性などは深く検討などされていないのである。

そのことは先に触れたように介護の専門性の検討を深めること無しに制度を作り上げた結果なのであろう。

その結果、現在でも介護福祉士資格は介護の専門性の証より、キャリアアップの必要用件などの身分の証として役割として機能しているのであろう。

だがしかし一方で

介護の現場では業務の統一性、あるいは他人に説明可能な介護の実践として、最低限介護福祉士資格が持つ知識と、技量を役立たせなければならない要求もある。

いまだ未確定な「介護の専門性」であるが、そのため最低限そのことは介護福祉士資格所持者に求めなければならない。

また現実は資格者はその役割を果たしているので、最低条件として現場の介護実践は資格者を求めているのである。

 

Ⅺ さて具体的に何をやるか検討してみよう

 

1外国人材に介護就労の目的を鮮明に持ってもらおう

当然、母国では得ることのできない職と報酬の獲得が目的である。

他に、今となれば明確で実現可能な将来の夢とそれを実現する具体性を必要とする。

それは先に記したように、賃金の他、永住、就労場所における地位向上、母国における満足を得られる、職身分などの獲得などの具体的な目的を必要としている。

そして、その目的実現と就任事業所が示すキャリアプログラムのマッチングも必要としている。

 

2目的の達成の第一は介護福祉士資格の取得である。

前記目的は、資格取得を必要とする夢であり、少なくともそれを前提として初めて実現する夢である。

その上で受け入れ事業所が示すキャリアプログラムは資格取得を前提としたプログラムをしめしその有利性を説明し納得を得て合意する。

 

3母国における人選について

可能であれば母国において将来の目的達成のために介護福祉士資格取得を取り合えずの目的とした人を人材候補者として選定する。

 

4教育の一貫性について

    送り出しの為の教育-②受け入れ時の教育―③着任時の教育-④技能実習1号2号時の実習計画―⑤実務者研修-⑥資格取得試験など4年間にわたる機関、取り合えず資格取得実現のための教育と実技を就労の中で実現できるよう一貫したプログラムを完成する。

 

5就労事業所における実習計画について

技能実習計画は国が示すモデル計画には触れていないことであるが

常に実技の中に学科内容も含まれるよう、実技の根拠を説明し理解させるよう努める。

6具体的には

    の送り出し教育においては

一般的な送り出し教育の他に特に

日本語能力N3 以上を獲得

母国における介護と日本における介護の違いを説明する

    受け入れ時の教育

一般的な入国時教育の他に特に

目的のより具体性の確認と、介護福祉士資格取得するための努力することの確認

等これまでの一般的仕組みの踏襲の他に特に心して実践することとする。

さてそのうえで特に心したい点は

介護福祉士資格試験に見られるように、「実技」と「学科」が分離されていて、その両者を習得したか否かで受験資格の要件や資格取得の合否が決まっている。それが起因してか、現在の主要コースとなっている実務経験ルートは3年の実務経験と、実務者研修終了が受験資格となっている、そのため実務の他に研修業者の研修を規定時間受けるのが一般的となっている。

またその関連はそれぞれに独立している。

そのためか、実際の実務の中に実務者研修における内容が直接反映されていない、それはそれ、これはこれなのである。

だがしかし内容の多くは直接の関連項目であり、見方によれば実技の中で説明をすることにより理解が早まり、または介護レベルの向上を招く項目が多々含まれている。

先に資格制定時における課題として残った介護の専門性の追求などは、このような卑近なところにそのヒントが隠されているようだ。

日常的な介護業務の中にその根拠、言われを努めて発見し説明し、学習させることが必要なのである。

その結果は介護に対する理解を早め、深めることになる。

必要なのは、日常業務の中に、実務者研修の中味を含んで教ることであろう。

そのため、日常業務の延長の中に資格試験合格が可能な様な日常業務を作り上げる必要があり、今そのことを我々は問われているようだ。

だがしかし実現するには時間と、労力を必要とする。

まづは受け入れ事業でその実践のテストをして仕組みを企画するところから開始しよう。

現在この問題意識のもとに現場にてその実践を企画し、実践に移そうとしている会員施設があると聞く、その実践の報告を常に受け入れる様にしよう。

そしてそれを参考にして自施設にあった仕組みを仕上げることにしよう。

その共同作業体を事業団の中に設ける必要があるかもしれない。

少なくとも受け入れ事業体により構成されているブロック会議にては実現したいものだ。

またそれは施設全体の仕事となり、結果的には、外国人材の教育の為であるが、日常業務にそれを求めることにより、施設全体の業務となり教える側教わる側両者の共同作業となるはずである。

その結果は当然施設全体の介護レベルが上がる事もにもなり、日常業務そのものが常に根拠に裏打ちされた仕事になる。

その中から介護の専門性など作り上げるきっかけと成るかもしれない。

また、このことにより外国人人材の導入は、単に不足人材の補充策としての強化につながり、日本人も含めてのスタッフの定着にもつながり、受け入れ施設の質の向上にもなるはずである。

今や外国人材の育成そのものは日本人も含め全スタッフの育成強化に直接つながる事なのである。

 

以上