「介護技能3期生の進路選択と今後の取り組みについて」
2023年10月
一般社団法人国際介護人材育英事業団
小沼 正昭
はじめに
・2021年4月に入国したミャンマーからの3期生の進路選択問題を契機に、技能実習生を取り巻く現状の内外環境変化が速いスピードで生じており、この変化に対応する会員と事業団とが基本方針の再確認と新たな課題に直面していることが明らかとなった。
遠回りするが、実習生を取り巻くミャンマーの現状やデータに基づき、注目が集まる、特定技能在留外国人、ミャンマー人の動向を少しでもマクロ的視点から捉え、新たな課題の核心とは何か、そして、基本方針の再確認と今後の取り組みについて探ることとしたい。
Ⅰ. 技能実習生を取り巻く環境の変化
1. 在留ミャンマー人の最大の関心事とは?
・さて、ヤフーニュース等は、ミャンマー軍政が、10月1日から海外で就労する国民に外貨での所得税納付を義務付けること、連邦税法の改定を承認し、外国で就労する国民の給与所得に対する課税率を下記の通りとすることを報じ、定義があいまい、はっきりしないてい徴収方法への不安や課税率の高さやから、在留ミャンマー人の関心を呼んだ。
・急遽、送り出し機関を通じて、改めてミャンマー軍政発表の内容確認をすると、下記の内容であることが判明した。
1) 海外で働くミャンマー人は、年間の給与所得の25%を、SBI等公式ルートを通じて、母国に送金すること。
3) 給与以外の所得収入に対しては、最大10%の課税とする。
4)何をもって「給与所得額」を確認するのか、いつ、どのような方法で納税するのか。
徴収するのか。未納税者へのペナルティーは?等、まだ具体的なものははっきりして
いない。
・かつての軍事政権の時代に、月1万円が大使館を通じて徴収されてきたが、その折も「二重課税であり主権侵害ではないか」と問題になったことはある。しかし、日本とミャンマーとの2か間の租税条約が結ばれておらず、グレーながらも追及されなかった。
・現状、日本とミャンマーの間には、いまだ租税条約が締結されていない。租税条約が締結されていれば、居住する国(年間183日以上滞在している国)で所得税を払えばそれで良い。日本政府には、課税率の高低に関わらず、先ずは、租税条約締結の話し合いを持ってもらいたい。
2. ミャンマー国内のチャット安と経済の低迷
・ミャンマー軍政は、クーデターから2年経過した2023年2月1日,国家非常事態宣言の期間をさらに6カ月延長すると発表した。
6カ月の期間延長を「通常は」2回まで可能とする憲法規定を手前勝手に解釈し,内戦継続を理由に3回目の延長をしたものである。
・軍政が2023年8月までに実施すると主張してきた総選挙も延期され、なし崩し的に軍政が長期化する可能性もある。
・一方、市民の抵抗運動は続いている。内戦も地方を中心に激化している。
10月5日、朝日新聞に「ミャンマー軍政、ミャンマービールの販売を強要」との囲み記事が掲載された。
『 2021年2月の軍事クーデターを受けて、かつて、余韻の深いコクのあるビールとして親しまれ、国内シェアの8割を占めたミャンマービールは、軍政の関連企業であったことから、市民の不買運動とお店側の不売運動で、約2年半、店頭から姿を消した。
それに対し、軍政はこの9月、関連企業の製品をいない店を各地で調べるように軍内に通知し、その後兵士らが各地の小売店や飲食店を回り、販売を拒否すれば販売許可を剝奪すると脅かし、100万チャット(約7万円)の罰金を科しているという。』
この背景には、「軍政の関連企業の収益が激減したことの焦りがある。」と、この記事は指摘している。
・経済も混乱し、低迷し、物価も高騰している。
アジア開発銀行(ADB)は、発表した報告書「アジア経済見通し(2023年9月)」で、ミャンマーの物価上昇率が2023年通年で14.0%となり、4月時点の予測値を3.5ポイント上回るとの見方を示した。通貨チャット安や国内での食料生産の低迷などが影響すると指摘している。
・今後長期にわたりミャンマーの経済は停滞するとの見方から、海外を目指す若者が加速度的に増加していくとみられ、実際、2022年3 月頃からヤンゴンを出る機内は海外で働くために出発する若者で占めており、若者の出国ラッシュとなっているようだ。
3. ミャンマーの~人の今、生活の実情は?
・ミャンマーの送り出し機関の『J-SAT通恣100号』に「ミャンマーの人々の今、生活の実情は?」と題する、特集が組まれた。
ミャンマーでは、燃料費高騰、通貨価格の下落により、物価が高騰。特に輸入品を中心に価格が上昇。生活に直結する米の値段、そしてタクシー、バスなど公共交通機関も値上がりしている。
しかし、ほとんどのショッピングセンター、レストランなどは営業し、盛況とのこと。
J-SATは、この特集で、軍事クーデター直前の2021年1月から2023年5月までの通貨価値と主要品目の物価の推移を調べて、この現況の特徴や要因を紐解いている。
・特集によれば、通貨(チャット)の実勢レート安は、3倍となっており、主要品目の物価
の推移もチャットベースだと2 年半で主要品目の価格が倍になっているが、チャット安の進行が3倍のため、US$ベースだと価格が下がっていると指摘している。
・つまり、家族の中で、海外で働いている人がいると、海外からの仕送り額が同じ給与額でもチャットベースで実質増加しており、逆に誰も海外で働いていない家族は生活が困窮しているといった2極化が急速に進んでいる状況だと指摘している。
こうした背景を受けて、普段食べる肉の量は少なくしているという声はあるが、2年で2倍に跳ね上がっている物価高騰で、本当に切り詰めた生活をしている様子は見られず、ショッピングセンターやレストランは盛況のようだ、と興味深い指摘をしている。
4.7月、日本語能力試験の応募者が10万人を超え、中国に続き、ミャンマーは史上2番目に10万人を超えた国となった。
・ 国際交流基金ヤンゴン日本文化センターによると、7月2日に実施された日本語能力試験(JLPT)のミャンマーの応募者数が10万人を超えた。過去に1カ国で10万人超の応募者がいたのは中国以外になく、ミャンマーは史上2番目に10万人を超えた国となった。
・ 2021年2月の国軍による権力掌握以降、雇用情勢が悪化したことで、国外での就労を検討する人が増加している。日本の場合は、就労条件の1つとして日本語能力試験合格が求められる場合が多いため、応募者数が増加した大きな要因だ。
5. 特定技能の介護技能評価試験・介護日本語評価試験(ミャンマー)の結果
・
2023年7月の特定技能介護技能評価試験の海外の合格者2,078名のうちミャンマーが1,419名と海外全体の68%を占めていることが発表された。
また、特定技能介護日本語評価試験については、海外の合格者1,877名のうちミャンマーが1,144名と海外全体の61%を占めています。(厚生労働省が発表した海外での試験実施状況報告より)
・ 但し、10月5日現在、ミャンマー国内にて試験を実施している業種は、農業、介護、外食業の3分野のみ。ミャンマー以外の他国での受験も可能だが、飛行機代などの負担も発生するため難しいのが現状だ。
・ 農業は不人気。誰でも受験できることから、興味のない職種であっても、例えば、介護職種の技能実習で入国し、滞在中に他職種の特定技能試験を受けて転職するケースも増えるだろう。本当にその分野で働きたいのかの見極めも大切となろう。
・ 2023年7月 試験結果(ミャンマー)
|
受験者数(人) |
合格者数(人) |
合格率(%) |
介護技能評価試験 |
1,462 |
1,419 |
97.1 |
介護日本語評価試験 |
1,304 |
1,144 |
87.7 |
6. 在留ミャンマーの在留資格別人口(法務省の在留外国人統計:在留資格別より)
・さて、在留ミャンマー人は、2021年2月軍事クーデアターの発生と2022年3月の新型コロナウイル水際措置の緩和、入国制限の撤廃を受けて、急増している。
在留資格別の推移の特徴は、下記の通りです。
|
・技能実習者の在留は、2021年12月11,226人、2022年6月15,688人、2022年12月
16,960人と微増しているが、構成比は、30.1%、32.5%、30.1%と横ばい。
・特定技能1号は、確実に増えて、構成比も2021年12月6.1%、2022年6月8.5%、2022
年12月10.6%となった。
・特定活動が、軍事クーデター発生後の時限的な緊急措置の発令を受けて、急増。2022年12月には10,707人で、構成比は19.0%に達している。
特に、安易な在留資格「特定活動」への変更も目立つと指摘されている。本当の理由が、職種に制限なく週40時間働くことが出来るからだ。又、在留資格の変更に当たり、ブローカーが絡んでいることも懸念される。
7. 日本の人口構成と日本人住民の生産年齢人口(15-64歳)
総計 |
日本人住民 |
外国人住民 |
1億2,541万6,877人 |
1億2,442万3038人 |
299万3,839人 |
(△51万1,025人) |
(△80万523人) |
(+28万9,498人 |
(△0.41%) |
(△0.65%) |
(10.70%) |
※総務省:2023年7月住民台帳に基づく人口動態調査(2023年1月1日現在)より
・日本人住民の人口は、2009年をピークに14年連続で減少。対前年減少数及び対前年減少率は最大。
・外国人住民の人口は、2020年以来3年振りの増加。人口は、調査開始(2013年)以降最多、対前年増加数及び対前年増加率は調査開始(2013年)以降最大となった。
・日本の生産年齢人口は、戦後2つのベビーブームを受け、ピークの1995年には8,716万人と総人口の69.5%を占めた。その後は少子高齢化の進行により、減少に転じている。総務省の人口推計によると2023年2月1日時点の生産年齢人口は7,400万人(概算値)。総人口に占める割合は59.4%まで低下した。
・この生産年齢人口の減少により、労働力の不足、国内需要の減少による経済規模の縮小など様々な社会的・経済的課題の深刻化が懸念される。
総務省のホームページによると、生産年齢人口は2065年に約4,500万人となる見通し(2020年と比べ約2,900万人の減少)。
・介護分野のみあらず、深刻な人材不足のなかで、頼みは外国人となる。
8 特定技能在留外国人数の国別、特定産業別、都道府県別人数について
・こうしたなかで、注目を集めるのが特定技能在留外国人の存在である。
1) 特定技能在留外国人の増加
・特定技能在留外国人は制度発足以降、増加を続けている。2023年6月現在の国別上位の特定技能在留外国人は、前年同期と比較して約10万人が増加し、173,089人となっている。介護職種も21,915人となった。
この国別上位は、ベトナムが7,092人(構成比32.4%)、次いでインドネシアが5,229人(同23.9%)、ミャンマーが2,817人(同13.1%)の第3位に浮上。
前年6月と比較すると、特にインドネシア(前年比306.3%)、ミャンマー(同251.3%)が急速な伸びとなっている。
2)特定産業別の特定技能在留外国人数について
・全体として、特定技能在留外国人は増えているものの、産業別にみるとばらつきが大きい。2023年6月現在の特定産業別の受入れ状況は下記の通りである。
・特定技能1号受入上限(2,019~23年度)の目標に対し、達成しているのは製造3分野(素形材・産業機械。電気電子情報関連製造業)の25,641人(達成率113.3%)と飲食料品製造の53,282人(同156.7%)のみだ。
・又、ルート別受入状況は、特定技能1号外国人全体でみると、技能実習ルート(技能実習2号移行対象職種と特定技能1号の業務区分が対応しており、したがって移行に際して試験が免除される。両者が対応している限りの転職者も含む)が121,090人で70.0%を占めている。これに対し、試験ルート(技能水準や日本語能力を試験等で確認)が51,999
人で30.0%と少ない。
但し、介護職種の場合は、技能実習ルートが4,184人(19.1%)と極端に少なく、試験合
格他ルートが17,731人(80.9%)となっている。
後者の内訳は、試験ルートが17,498人、介護福祉士用紙E施設修了者ルート2名、EPA
介護福祉士候補者ルートが231人となっている。
つまり、他職種と大きく異なり、現状では、在留する特定技能介護人数のなかには、介護
の現場をしらない、実務の経験の少ない未経験者が8割を占めているのが実態である。
だから、技能実習ルートの人材は貴重なのである。
ましてや、ここ2年は、コロナ対策の入国制限の影響を受けて、特定技能候補者の絶対数
が少なくなる。
技能実習から特定技能への移行希望者の争奪戦は、間違いなく激化する。
※技能実習ルート:技能実習2号を良好修了につき試験免除
※試験ルート:特定産業別の技能試験・日本語試験に合格他
3) 技能実習2号修了者の実習修了の状況について
・「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の第1回資料によれば、2022年度の修了者は110,337人。
2020年、2021年修了者では『帰国等』の割合が(2020年度52.3%、2021年度36.3%)が最も多く、2022年度修了者では『特定技能1号』が40,209人、割合が36.4%と最も多くなっている。
次に帰国等が33,285人(同30.2%)、特定技能3号が26,670人(割合24.2%)、その他が10,172人(同9.2%)となっている。
・残念ながら、介護職種の修了者のデータはないが、特定技能への移行を基本方針としても、力仕事となろう。
4)都道府県別特定技能外国人数について
・都道府県別都道府県別特定技能在留外国人数をみると、2023年6月末現在で、愛知県が14,737人と最も多く、全体の8.5%が在留している。次いで、大阪府が10,361人(構成比:6.2%)、埼玉県が9,966人(同:5.8%)、千葉県が9,914人(同:5.7%)となっている。
一方、秋田県は273人と最も少なく、全体の0.2%を占めており、次いで鳥取県が440人(同:0.3%)、島根県が542人(同:0.3%)となっている。
・介護職種だけをみると、同じく2023年6月末現在で、大阪府が2,336人と最も多く。全体の10.7%が在留している。次いで、東京都が1,917人(構成比8.7%)、神奈川県が1,893人(同8.6%)、愛知県が1,633人(同7.5%)となっている。一方、鳥取県が19人(同0.1%)と最も少なく、次いで秋田県55人(同0.3%)となっている。
・政府は、特定技能制度について、人材が不足している地域の状況に配慮し、特定技能の在留資格を有して在留する外国人が大都市圏その他の特定地域に集中して就労することにならないように必要な措置を講じるように努めるとの方針を示している。実際には三大都市圏や北海道、広島県、福岡県など特定地域に特定技能在留外国人は集中している。
・首都圏(埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨)、関西(京都、大阪、兵庫、奈良)、九州・沖縄(福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄)の3ブロックの介護職種の特定技能在留外国人数と同ミャンマー人数は、下記の通りです。
・3ブロックとも、伸張率にバラツキはあるものの、増加傾向にあるが、介護職種の場合、技能実習コースの割合が約2割に留まる。残りは、戦力として未知数だ。
5) 技能実習から特定技能へ移行時の地域間異動状況(出入国在留管理庁のデータより)
・しかも、特定技能全体のデータであるが、特定技能人材の約4割が移行時都道府県をまたぐ居住地の異動があったとされる。
都市部への集中が顕著で、首都圏、愛知県、大阪府への転入者が多い。
・特定技能1号外国人130,915人(2022年12月末現在)のうち、技能実習から移行者(注1)は95,302人。そのうち、特定技能1号への移行に際し、都道府県をまたぐ居住地の異動(注2)があったのは、39.0%(37,173人)であった。
注1:技能実習終了後、「特定活動」等の在留資格で在留した上で、特定技能1号に移行した者を含む。
注2.:技能実習の在留中の最後の在留資格申請に係る許可時点の居留地と、技能実習から特定技能1号への在留資格変更許可日から1カ月以内の最後の届出された時点の住居地に異動があるもの。
・当該異動における、会員が属する各ブロックの転出・転入状況は下記の通り。
Ⅱ 3期生の進路問題と今後の課題について
1. 事業団の到達点について
・技能実習制度は、技術の移転を掲げ、国際貢献をうたい文句にしており、帰国を前提としている仕組みである。実際は、「出稼ぎ労働者」だ。大半の外国人介護人材が、いつかは帰国する人たちなのである。実習生本人はともかく、帰国後のことなど、殆どの受け入れ施設・事業所は考えていないし、国も眼中にないのが現実である。
外国人介護人材を先行して受け入れた事業所は、人員にゆとりもない窮状で、その多くは、苦労の末、外国人介護人材の採用にこぎつけ一安心、あるいは、一人でも多くの新たな採用に努力を重ねているのが現状である。
・だが、視点を変えれば、誰も、その現実を前提に、施策を講じることをしてこなかっただけなのである。
・私たちは、介護人材の国際的循環の理念を掲げて発足した。そして、理念の実践からすれば、現在は、受け入れルートの確立の段階から、ようやく、計画的な人材育成と国際的な好循環の第2幕が始まったばかりだが、確実な第1歩を踏み出しつつある。
日本語教育オンライ授業を開講して3年目を迎え、日本語能力試験のN1、N2合格者が増えた。「実務経験コース」による、国家資格の介護福祉士取得に向けた、実務者研修の修了者も二桁の超え、昨年度3名の国家試験合格者が誕生した。
この10月には、介護福祉士合格支援オンライン講座も開講するなど、会員から10名が年明け1月の介護福祉士の国家試験にチャレンジすることとなった。小さくとも会員が協同することで、実践できた施策の成果のあらわれである。
私たちは、理念と基本方針に基づく、第2幕を5~10年のスパンで構想している。
そして、会員の多くが、どのような戦力人材として育成していくのか、その教育方針を示していくこと、各人にキャリアパスを示して支援していくことが重要な段階に入った、と認識している。
2. 事業団の基本方針と目標について
・事業団が、理念を踏まえて、基本方針として意識的に具体化したい事項は、下記の通り等々である。
1.介護現場では、介護福祉士取得はキャリアパスの登竜門。介護希望者には介護福祉士資格の取得条件を進める。
2.帰国希望者には、日本語能力の向上など、「帰国後の活躍」を見据えて、就労に直接役
立つ技能の習得を援助する。
とりあえず、送り出し機関と連携し、とりあえずは、現地の日本語学校や介護専門学校
へ就労を推進する。その為、教育指導人材の育成プログラムを準備する。
3.介護福祉士取得者を中心に、帰国後、訪問介護事業等の起業とフランチャイズ化を展望
する。あるいは、現地の団体と連携し、介護施設の開設など、事業可能性を追及する。
4.ますます、日本人の新規採用の困難が見込まれるために、外国人スタッフ中心の事業運営を構想し、検討する。この観点からも、外国介護人材の教育計画を推進する。
3. 3期生の進路選択の集約について
・当該会員は、技能実習2号から介護職種の特定技能1号への移行という、基本方針の貫徹に向け、最大限の努力をされた。だが、3期生の進路選択は、同特定技能1号への移行が減り、他職種への転職希望が増え、それも在留資格は特定活動がほとんどだった。
・この結果だけを見れば、介護職種が選ばれず、かつ、在留資格特定技能は選ばれなかったという厳しい内容だ。
だが、3期生の進路選択の結果は、雇用する側とされる側の思いの違い等を鮮明にしただけだ。
□ 実習生の目的は、「出稼ぎ」で母国への仕送りが第1であり、介護の選択は、その目的と達成するための手段。
□ おのずと、在留外国人が稼げることが重要となる。ミャンマーの国内事情からも、家族への送金の期待されている。
□ 実習生は、技能実習2号の修了をもって、転職の自由を獲得する。
同業種であっても、より賃金の高い、都市部への異動が始まる。「帰国後の活躍」を念頭に、仕事のない介護に見切りをつけて、新たな職種への転職を求める動きを加速させる。
□ 高齢者の世話は「徳を積む」。実習生の満足度は高かったし、利用者からも高評価だった。施設側は、とりあえず、人不足を埋めることが出来たが、結果的に着任して、一(ひと)安心してしまった。いまだ手探りの状態にある。
□ だが、介護の現場はスタッフ不足で、余裕をもって、日々の「徳を積む」ことがかなわない。後ろめたいが転職をせざるを得なかった、との3期生の声も寄せられた。又、一過性の「出稼ぎ」の位置付けから脱却、明確な教育方針やキャリアパスの明示は今後の重要な課題となった。2月アンケート調査結果から)
特定活動が増えた理由は、特例措置だが、在留しながら、職種に制限が無く、週に40時
間働くことが、出来るからであろう。
先ずは、前向きに捉えたいが、ブローカーが絡んでいることも懸念される。SNSによる情報の氾濫、友達を利用した紹介キャンペーンもある。
4. 今後の課題について
① 昨今のミャンマーの国内事情を受けて、日本行きを希望する若者が増えている。
これからは、日本語要件を満たしているかだけではなく、ご本人の福祉への情熱や介護の素質を、しっかり見極めてから人選をすることが大切となる。
そして、介護福祉士資格取得を目的とした、人材の送り出しも間違いなく増えるであろう。
その為に、現地で出来ること、事業団として協力していけることを課題化する必要もあるのではないか。
② 次に、制度的に技能実習制度の廃止は避けられない。
10月13日、読売新聞が、外国人の技能実習制度のあり方を検討する政府の有識者会議が、今秋にもとりまとめる最終報告書案の骨格が下記のように明らかになった、と報じた。
つまり、就労開始から1年が過ぎ、初歩レベルの日本語能力と、基礎的な業務の技能・知識があると判断されれば転籍を可能とする。外国人が母国の送り出し機関に多額の手数料を払って来日するケースも問題となっており、企業側が手数料を一定額負担する仕組みを整える等である。
今秋をめどに、この最終報告がまとまるが、新制度は、実態に即して、「人材確保」も目的に加え、原則不可とされている就労先の転籍(転職)の制限も緩和する方向性が示されるであろう。そして、将来的には、特定技能制度に吸収されていくことが見込まれる。
他方、4年で介護福祉士資格取得を目的に、一定の条件のもとで、特定技能介護人材を受け入れる動きに拍車がかかるであろう。
➂ それ故、送り出し機関とは、新制度なり、特定技能制度を前提しとした、持続可能な新たなビジネスモデルの構築が求められる。
核心的なことは、基本方針の共有を踏まえた、介護福祉士の資格取得を目的とした人材の送り出し、主要な人材として捉えた、将来に向けたキャンリアップの保証、あるいは、「帰国後の活躍」を前提とした、介護人材の国際的好循環の道筋づくり、そして、実現であろう。
これからは、かかる実現に向けた、一気通貫の人材育成等のプログラムと持続可能なビジネスモデルの構築が求められるであろう。
④ 第2幕のなかで大切となるのは、改めて、基本方針を再確認し、意識的に具体化したい4つの事項について、目標をもち、計画的に実行していくことだ。
今回の6期生の選考面接の際立った特徴は、ほぼ候補者全員が在留期間を5年以上8年と長期の滞在を希望し、加えて、そのほとんどが介護福祉士の取得を目的としていると、仰っていたこと。総じて、日本語の学習意欲も高いのも特徴だった。
入国を待たずして、将来を担う、主要な人材として位置付けてた教育方針とキャリプログラムが求められ、受入施設は、その覚悟が必要となる。
会員で出来ること、各ブロックで出来ること、事業団として出来ることを棲み分けながら、協同して、各々のプログラムの完成度を高める必要がある。
外国人介護スタッフのキャリアアップや活躍は、貴重な戦力の確保となるだけでなく、次の世代にとってのロールモデル(お手本となる人物)となることで、今後受け入れる外国人材のモチベーションの維持・向上にもつながると考えられる。
以上